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大阪高等裁判所 平成12年(ラ)110号 決定

抗告人 A野株式会社

代表者代表取締役 B山太郎

代理人弁護士 天野実

同 神川朋子

相手方 破産者株式会社C川屋酒店破産管財人森信雄

第三債務者 株式会社 D原

代表者代表取締役 E田松夫

主文

一  原決定を取り消す。

二  本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

理由

第一抗告の趣旨及び理由

別紙「執行抗告状」及び「抗告理由書」記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一  当裁判所は、次項に記載するとおり、抗告人提出の書証をもって、抗告人から破産者株式会社C川屋酒店(以下「破産者」という。)に売却されたビールが、破産者から第三債務者に売却されたことを認めることができ、動産の同一性の立証がなされたものと判断するので、その立証がないとして抗告人の本件申立を却下した原決定を取消し、本件を大阪地方裁判所に差し戻すこととする。

二  甲一によれば、抗告人は、破産者との間に、昭和六二年四月一日、抗告人の製造するサントリービール樽生ビール(以下「樽生ビール」という。)を破産者に継続的に売却する旨の取引契約を結んだことが認められ、甲二の一ないし二二は、抗告人が破産者に対し売却納品した樽生ビールの受取りを証する破産者作成の受取書であるから、甲一及び甲二の一ないし二二によれば、抗告人は、上記取引契約に基づき、平成一一年八月二八日から同年一〇月二二日までの間に破産者に対し、抗告人主張の樽生ビールを売却納品していたことが認められる。一方、甲四の一ないし四〇は破産者作成の第三債務者に対する樽生ビール代金の請求書、樽生ビールの納品書であって、これによると、破産者は、平成一一年九月一日以降、第三債務者に対し、抗告人主張のとおり樽生ビールを売却していたこと、その数量は、抗告人が平成一一年八月二八日以降同年一〇月二二日までの間に破産者に売却した樽生ビールの各数量の範囲内であることが認められる。

抗告人は、破産者が平成一一年九月一日以降に第三債務者に売却納品した樽生ビールは、すべて、抗告人が、平成一一年八月二八日以降同年一〇月二二日までに破産者に売却納品した樽生ビールであると主張し、動産の同一性については、抗告人は樽生ビールの製造元であるから、破産者の仕入ルートを把握し得る立場にあって、破産者の仕入先が抗告人一社だけであることが明らかであると主張して、甲六(作成者は、抗告人の社員で、平成一〇年一〇月から破産者との取引を担当していたものである。)、甲七(作成者は、第三債務者の社員で、同社の大阪支社バーレストラン事業部の事業部長で、破産者との取引の担当者である。)の各報告書を提出する。

甲六は、抗告人製造の樽生ビールが鮮度を要求される商品であるとの特殊性のあることを挙げ、そのために、①抗告人は大阪府下では卸売店を経ずに直接小売店に販売する形態を取っており、したがって、破産者は抗告人以外から樽生ビールを仕入れていないこと、②破産者から第三債務者への樽生ビールの売却納品までの期間は遅くとも七日以内に限定され、したがって、破産者から第三債務者へ樽生ビールが売却納品された期日と抗告人から破産者へ樽生ビールが売却納品された期日とが接近していることなどの樽生ビールの販売実態を説明するものであり、甲七は、第三債務者は破産者から甲四の一ないし四〇記載のとおり抗告人の樽生ビールを仕入れたこと、第三債務者の仕入先は破産者一社だけであることを説明するものであることが認められる。

民事執行法一九三条一項にいう「担保権の存在を証する文書」については、債務名義に準じるような公文書である必要はなく、私文書でも足り、一通の文書でなくても、複数の文書によることも許されるが、これらの文書を総合して、担保権の存在を高度の蓋然性をもって証明できる文書であることが要求される。したがって、担保権の存在を証する文書については、必ずしも債務者が作成に関与することまでは要求されないが、債権者が一方的に作成した文書、債権者や第三債務者が事後的に作成した文書等は上記証明力が弱い場合があるため、これらの文書だけでは担保権の存在を高度の蓋然性をもって認定することができないという理由で、担保権実行の申立が却下される場合のあることは当然である。

甲六は、抗告人と破産者、破産者と第三債務者間に取引された樽生ビールの特殊性を説明するものであり、甲七は破産者と第三債務者との取引の実態を説明するものであって、これらの文書は事後に債権者である抗告人や第三債務者が債務者である破産者の関与なしに作成した文書ではあるが、このことだけを理由に直ちに排斥するのは相当でない。

甲六、七と前記甲一、二の一ないし二二、四の一ないし四〇及び抗告人が樽生ビールの製造元である事実を総合すれば、抗告人主張のように、抗告人が破産者に売却した樽生ビールが、逐次破産者から第三債務者に売却された事実が認められ、その結果、抗告人は、この各売買により、原決定別紙差押債権目録記載の売買代金債権につき同別紙担保権・被担保債権・請求債権目録記載の売買契約に基づく動産売買による先取特権に基づく物上代位権を有することが認められる。

三  よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 熊谷絢子 亀田廣美)

〈以下省略〉

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